遺産の使い込みが発生した場合の対処法
遺産の使い込みとは、被相続人の生前に財産管理を行っていた相続人や被相続人と同居していた相続人などが、自分のために遺産を勝手に使ってしまうことです。
よく起こるのは預貯金ですが、不動産を勝手に処分することも該当します。その他にも、生命保険や株式、賃料が使い込まれてしまうこともあります。遺産の使い込みが発生すると、相続財産が減少するのは言うまでもありません。
また、使い込んだ相続人だけが得をすることになるので、他の相続人に不公平が生じることになります。遺産の使い込みが原因で相続人同士の関係が悪くなり、争いが起こるとなることも少なくありません。争いが起こってしまっては、話し合いでの解決は困難になります。
そこで今回は、遺産の使い込みが発生した場合は、どのように対処すればよいのかについて解説をしていきます。
遺産の使い込みが発生する時期
遺産の使い込みが発生しやすいのは、被相続人が認知症などによって財産の自己管理ができなくなった時が多いです。
具体的には、被相続人が年を取って判断能力が低下したり、被相続人が病気などで寝たきりになってしまったりする場合です。
このような時期は被相続人の監視がなくなり、また、他の相続人に気付かれる可能性も少ないため、預貯金を勝手に引き出して使う、生命保険を解約して解約返戻金を受け取る、不動産を売却し売却金を受け取るなどのが発生しやすいといえます。
これに早い段階で被相続人や他の相続人が気付ければよいですが、そうでない場合、使い込みをした相続人はこれを隠し、相続発生時にあたかも使い込みがなかったかのように振る舞うというわけです。
遺産の使い込みが分かった場合は?
まずは、直接請求するという方法があります。相手が遺産の使いこみを認めて話が進めば問題はすぐに解決します。
しかし、使い込みを認めない、または、同居しているから使っても問題ない、世話をしているのだから使って当然といったように、使い込みを悪く思っていない方も現実にはいらっしゃいます。
また、使い込まれた相続人も使い込んだ相続人に対して疑いの気持ちが強いため、話し合いは難しいでしょう。そうなると、直接請求による解決は難しいといえます。こういった場合は、遺産分割調停による解決を図る方法があります。
しかし、結論から述べると遺産分割調停での解決は難しいのが現実です。理由は、遺産分割は、遺産の範囲が確定している財産を相続人に分配する手続きだからです。相続人全員が遺産の内容を認識している必要があります。
遺産の範囲についてもめている場合、家庭裁判所に行っても調停自体を受け付けてもらえないのです。まずは、遺産の内容を明確にするよう要求されるでしょう。
不当利得返還請求の利用
直接請求も、遺産分割調停も難しい場合、どうしたら良いのでしょうか?この場合、二つの方法が考えられます。一つ目は、不当利得返還請求の利用です。
まず、不当利得返還請求について解説します。不当利得返還請求の「不当利得」とは、契約などの法律上の根拠がないにも関わらず、他人の財産などの利益を得ることです。
したがって、不当利得返還請求とは、不当利得によって損害を受けた人が不当利得を得た人に対し、利益の返還を求める権利のことです。もちろん遺産の使い込みも不当利得にあたります。使い込んだ相続人は法律上の根拠なしに預貯金などの利益を得ており、被相続人は使い込まれた分の損失を受けているといえます。
よって、不当利得返還請求に基づいて、被相続人は、使い込んだ相続人に対して使い込んだ財産の返還を求めることができます。
また、被相続人が亡くなった場合、不当利得返還請求権も各相続人に相続されるので、使い込んだ相続人に対して使い込んだ遺産の返還を求めることができます。
損害賠償請求の利用
次に、不法行為にもとづく損害賠償請求という選択肢もあります。
まず、不法行為とは、故意または過失に他人の権利や利益を侵害する行為のことです。不法行為があった場合、被害者は加害者に対して損害賠償をすることが可能です。遺産の使い込みもいわば不法行為に該当します。
被相続人は使い込んだ相続人に対し、不法行為に基づく損害賠償として、使い込んだ遺産の返還を請求する権利を得ます。この権利は被相続人が亡くなった場合、各相続人に法定相続分に従って相続され、相続人は各自の法定相続分について使い込んだ相続人に財産の返還請求ができるのです。
どちらの方法で請求をしても基本的には同じですが、大きく変わる点として時効が挙げられます。不当利得返還請求権の時効は、当該行為から10年間、不法行為にもとづく損害賠償請求権の場合は、損害が発生したとき及びその加害者を知ってから3年間です。遺産の使い込み行為からの経過期間によって使い分けましょう。
遺産の使い込み問題は専門家に任せよう
遺産の使い込みが発生した場合、当事者のみで解決するのは困難であると言わざるを得ません。当事者同士では、使った、使っていないと水掛け論になるのが目に見えています。
そのため、不当利得返還請求や不法行為にもとづく損害賠償請求の訴訟を起こすことによって相手の責任を追及することが解決への近道であるといえます。
しかし、訴訟を起こすとなると専門知識はもちろん、時間も手間もかかってしまいます。こうした負担を軽減する意味でも、弁護士の手を借りるのが得策といえるでしょう。
また、こちらに弁護士がついているということを知れば、相手もそれなりに身構えることから、早期解決も期待できます。当事務所でも遺産の使い込みに関する相談を承っております。初回30分無料相談も行っているので、お気軽にご相談ください。