【弁護士による判例解説】遺産に属する不動産から生じた賃料が発生した場合、どのように管理した方が良いか。(最高裁平成17年9月8日判決を参考に)

代表弁護士 多湖 翔 (たこ つばさ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号46487)

1 事案の概要

登場人物は全部で四人です。父(被相続人)、配偶者(相続人)、前妻の子ども二人(相続人)です。

被相続人は、複数の不動産を他人に貸しており、賃料が発生するいわゆる「収益物件」を所有していたところ、相続人間では、任意の話し合いで、各不動産から生ずる賃料や管理費等の帰趨を決めることが出来ず、本件各不動産の帰属が確定するまでの間、賃料等を管理するための口座を開設し、本件各不動産の賃借人らに賃料を振り込ませる方法を取りました。

その後、大阪高等裁判所で遺産分割に関する審判が確定し、各不動産をどのように相続人に帰属させるかの判断が確定しました。その際、配偶者は、各不動産から生じた賃料は、相続開始の時にさかのぼって、本件各不動産を取得した各相続人がそれぞれ取得するように分配額を算出すべきだと主張したのです。

配偶者の主張では、プールしていた賃料2億円のうち、1億9000万円が自らに帰属することになります。これに対して子らは、法定相続分にしたがって賃料を分配すべきだと主張したのです。子らの計算では、配偶者の取得できる金額は1億円ですから、両者の主張には9000万円の差額があり、双方が最高裁まで徹底的に争いました。

2 最高裁判例の概要

最高裁平成17年9月8日判決は、「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。

遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

3 最高裁判決の影響と、収益物件がある場合のおススメの管理方法

(1)最高裁判決の影響

この最高裁判決の影響は大きいです。判決自体はかなり古い判例なのですが、ご存じないご相談者様も多く、自分は不動産の管理をしているから他の相続人に対して賃料を渡す義務は全くないと考えていたり、将来賃料が発生している不動産を自分が相続できれば、他の相続人に対する賃料の支払義務を免れると考えてらっしゃる方もいます。

この最高裁判決を簡単に要約すると、「賃料の分配について特別な話し合いが出来ないときは、不動産が誰に帰属しようと、賃料は当然に法定相続分通り分けることになるからね。」ということです。

そのため、他の相続人に賃料を渡さなくて済むケースというのはかなり少なくなっています。手元に現金があると、他の相続人が何も言わないからといって、日々の生活費等に色々と使ってしまい、何年も経ってから、他の法定相続人から弁護士を立てて被相続人の他界時から遡って莫大な金額の賃料を請求されてしまい、遺産分割協議時にどうしようもなくなってしまうことがあります。

そのような場合、自分が本来は遺産から相続できた部分を諦めて、賃料部分の返還債務に充てるということが実務ではしばしばあります。遺産相続に臨むにおいては、しっかりとした知識を持っている必要があります。

(2)最初から賃料を法定相続分通り各相続人口座に送金して頂き、経費の分担の仕方だけ合意をしておく方法。

それでは、遺産分割が終了するまで、賃料はどのようにプールしておくのが適切なのでしょうか。

一つ目は、シンプルに、最初から賃料を法定相続分通り、各相続人口座に送金してしまい、経費の分担だけ方法を話し合っておくやり方です。

これは、不動産を管理していない相続人側からは嬉しいやり方なのですが、まず、不動産管理会社などが入っていない、個人に直接賃貸借をしているケースですと、賃借人が対応してくれません。送金作業が面倒だからです。

また、不動産を管理している側からすれば、収入は法定相続分通りしか手元に来ないのに、経費や税金等を事実上立替えなければならない状態になり、応じてもらえないこともあります。

(3)管理する代表者が共同口座を定めて経費を差し引いてから定期的に送金する方法

今回の最高裁判例の事案のように、代表者が管理する銀行口座を定めておくやり方もあります。経費や税金等の分担についてその口座から支払うことをあらかじめ合意した上で、預貯金をプールし、定期的に各相続人に送金する方法も一つです。

この方法は、賃借人が個人で送金先を複数に増やせない場合や、経費や税金等の支出がかなり大きく、各相続人間で事後的に清算する方法では、不動産管理をする者に著しく不利になる場合に取られます。

賃料をどのように管理していくにせよ、弁護士を立てて、他の相続人としっかり話し合いを持つことがトラブルを防ぐうえで非常に重要です。

(4)所得税に要注意

そして、こういった事例で特に気を付けるべきは、所得税の申告です。

特に不動産を管理しておらず、賃料も手元に来ていない相続人は、「遺産分割が終わるまでは所得税を払わなくてもいいのでしょ?」「だって手元にお金ないし。」と考えてしまいがちですが、税務署はそうは考えてくれません。以下は税務署のホームページからの引用ですが、恐ろしいことがさらっと書いてあります。

賃料については必ず、法定相続分通り申告せよというのが税務署のスタンスです。分割の確定を理由とする修正申告等も出来ないと明記されています。申告は漏らさないようにしましょう。

相続財産について遺産分割が確定していない場合、その相続財産は各共同相続人の共有に属するものとされ、その相続財産から生ずる所得は、各共同相続人にその相続分に応じて帰属するものとなります。

したがって、遺産分割協議が整わないため、共同相続人のうちの特定の人がその収益を管理しているような場合であっても、遺産分割が確定するまでは、共同相続人がその法定相続分に応じて申告することとなります。

なお、遺産分割協議が整い、分割が確定した場合であっても、その効果は未分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではありませんので、分割の確定を理由とする更正の請求又は修正申告を行うことはできません。

(参考)不動産所得の収入計上時期|国税庁

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