【弁護士による判例解説】「葬儀費用は喪主負担か,法定相続人負担か。」(東京地裁令和3年9月28日判決を参考に)」
被相続人について支出した葬儀費用を喪主が全額負担すべきか、法定相続人が相続分に応じて負担すべきか、議論があります。
葬儀費用の負担を誰がするかについては、相続財産の使い込みの事例で問題となることが多いため、裁判例をもとに検討してみましょう。
1 事案の概要
被相続人には2名の相続人がいました。被告は、被相続人の預金口座等から、被相続人の生前及び死後に多額のお金を引き出していました。
本件は、生前に引き出した分に加え、被相続人の死後に引き出した259万円余りの金額について、不当利得返還請求を行った事案です。
この訴訟の中で、被告は、死後の引出しについては、葬儀費用で約113万円、墓所工事費用で約73万円、葬儀の返礼品として約27万円、49日の法要費用で約12万円を支出したとして、不当利得ではないと反論し、葬儀費用を喪主である原告が全額負担すべきか、相続人である負担すべきかが争われました。
2 判決の概要
これについて本判決は、「葬儀費用等、墓所移動費用の合計226万6501円についてはいずれも当然に共同相続人が相続分に応じて負担すべき性質の費用とはいえないところ、被相続人の生前にその死後に要することとなったこれら費用について、明確に被告にその出捐をゆだねていたと認めるに足りる証拠はなく、当該費用支出の時点で、原告の承諾を得たとも認められない。
そうすると、これら費用は原告が負担すべきものとはいえず、当該費用出捐の原因となる葬儀等を主宰したと考えられる被告において負担すべき費用である。
したがって、仮に本件死後出金をこれら費用に充てていたとしても、それは被告が負担すべき費用に充てたというにすぎず、その限度で被告は、原告の損失の下、利得を得たといえるし、その利得に法律上の原因があるとはいえない。」と判示ました。
3 最近の裁判例が考える葬儀費用の負担者について
最近の裁判例は、葬儀費用等について、死後に発生した債務であることを理由に、原則として喪主(主宰者)負担とし、他の相続人が明示ないし黙示に葬儀費用を遺産から、あるいは相続人が負担することについて同意していると認定できる場合を除き(東京地裁令和3年7月14日判決、令和3年4月28日判決、令和2年2月7日判決参照)、葬儀費用等は喪主の負担に帰属するという考えを取っています。
本判決もこれら最近の潮流の判決と同旨の判決です。問題は喪主(主宰者)と認められるためにどのような考慮要素があるかです。契約書の喪主欄の記載が誰であるか、当日の葬儀を喪主として執り行ったのが誰かは当然のこと、多くの裁判例では、香典を誰が管理し取得したか、事前の打ち合わせとして葬儀の内容等を決めたのは誰かなどを考慮要素としています。
そして、事前に他の相続人と葬儀の内容や費用に関する打ち合わせを行っていたかどうかを他の相続人の黙示や明示の同意の考慮要素としています。
4 これから葬儀を行う際の注意点
遺産とは関係なしに、喪主として、あるいは今後の祭祀承継者として自分が葬儀費用や今後の法要等を全額負担することを前提に行動するのであれば、ご自身で全て決めてしまっても構いません。
しかしながら、遺産分割の際に考慮して欲しい、亡くなった際に引き出した預金から支出することを認めて欲しい(遺産から支出したい)と考えている方は、事前に他の相続人に対してその旨の協議をする必要があります。口頭よりもラインやメールの方が証拠に残りますので、出来る限りそちらも併用した方がいいかと思います。
伝えるべき内容としては2点です。①例えば葬儀会社の見積書等を送り、内容や費用について意見を伺うことが必要です。
次に、②葬儀費用については被相続人等の遺産から支払いたいことを伝え、了承あるいは黙認を得ておく必要があります。
これらをしていなかったからといって、他の相続人に絶対に負担させられないというわけではないですが、最近の裁判例に照らすと、これから葬儀をされる方は、これらをやっておくと一つ安心でしょう。