【弁護士による判例解説】「相続欠格と代襲相続」
1.相続欠格とは
民法891条に定められた以下の5つの事由に該当した場合、相続人は、相続人の資格を失います。これを相続欠格といいます。
① 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者。
② 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。
ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときはこの限りでない。
③ 詐欺又は脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者。
④ 詐欺又は脅迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者。
⑤ 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者。
欠格事由に該当する場合、当該相続人は、相続権を失います。遺言があっても遺産を受け取ることはできません。
しかし、代襲相続は認められますので、欠格事由に該当した相続人の子が当該相続人に代わって相続人となることはできます。
それでは、遺言書を隠匿したとして欠格事由が認められる相続人が、遺言書により取得するとされていた財産について、当該相続人の子に代襲相続を認めることはできるでしょうか。
例えば、父の相続人として長男、次男、長女、次女の4人がいる場合に、父が、遺言書で、A土地につき長男と次男で2分の1ずつ相続させると定めていたが、長男が、A土地を自己の単独名義とすべく当該遺言書を隠匿したとして相続欠格にあたるとされた場合に、長男の子は、代襲相続により、長男が遺言により取得するはずであったA土地の2分の1の持分を取得するかという問題です。
2.東京地裁平成27年7月16日判決
(1) 事案の概要
Aには、二人の子X2とBがいます。そして、X2には、子X1とCが、Bには、子Y1とY2がそれぞれいます(X1、C、Y1、Y2はAの孫にあたります)。
平成14年9月、Aは、甲不動産はBに相続させること、乙マンションはX1とBに名義をかえてBに管理を頼むこと等を内容とする自筆証書遺言書(以下「本件遺言」)を作成しました。
平成15年6月にAが死亡しましたが、Bは、本件遺言があるにもかかわらず、遺言書の内容を明らかにしないまま、X2との間で、乙マンションにつきBの単独所有とする遺産分割協議を行い、乙マンションを第三者に売却しました。
平成24年3月にBが死亡し、Y1Y2は、本件遺言によりBが亡Aから甲不動産を取得したことを前提に、甲不動産をY1の単独所有とする遺産分割協議を行い、Y1は甲不動産につき相続登記を経由しました。
これに対し、X1は、本件遺言によってX1が取得すべきであった乙マンションの持分2分の1に相当する売却代金額の支払を求め、X2は、Bには遺言書の隠匿による相続欠格事由があるため、本件遺言によりBに承継されるはずであった甲不動産について、X2が法定相続分である2分の1の割合で相続したとして、甲不動産を単独所有したY1に対し、所有権一部移転登記手続を求めました。
(2)争点
Bが本件遺言を隠匿した場合、YらはBが遺言により取得するはずであった甲不動産及び乙マンションの持分2分の1を代襲相続するか。
(3)裁判所の判断
「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解されるから、当該相続人に欠格事由があった場合、遺言者が当該相続人の代襲者に遺産を相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り、当該遺言は効力を生じない。
本件で、Aが、Bが遺言書を隠匿した場合を想定し、その場合にBが承継すべきであった遺産をその代襲者に相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情があるとはいえないから、Bに対する遺言の部分は効力を生じない。
3.まとめ
遺言で「相続させる」と指定された相続人に欠格事由がある場合は、特段の事情がない限り、遺言は効力を生ぜず、したがって代襲相続人に遺言の内容が引き継がれることはないことになります。
そして、一般的に、特定の推定相続人に「相続させる」旨の遺言をした場合、その遺言者が、当該推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するということはいえますが、それを超えて、当該推定相続人が自分より先に死亡した場合や欠格事由がある場合に、代襲者に相続させる意思を有していたと推認することは、一般的には困難です。
したがって、遺言書に明記していない限りは、上記特段の事情が認められることは極めて難しいといえます。
以上