【判例解説】妻の貢献を夫の寄与分として主張できる?
被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与(通常想定される程度を超える貢献)をした相続人がいる場合に、貢献度に応じて、その相続人の相続する財産を増加させる制度を「寄与分」といいます。
寄与分を受ける資格がある者は、原則として、相続人とされていますが(民法904条の2第1項)、相続人以外の人が特別の寄与をした場合、当該寄与が考慮されることはあるのでしょうか。例えば、相続人の妻が、重度の認知症となった被相続人の介護を行い、財産を維持(財産の減少を防止)したような場合、妻の貢献を相続人の寄与行為として認めることはできないでしょうか。
この点について、裁判例をご紹介しながらご説明いたします。
※ 2019年7月1日施行の相続法改正により、特別寄与の制度が創設されましたが、ここでは、相続人以外の者がした貢献を相続人の寄与といいうるかという観点からご説明します。
【東京高等裁判所平成元年12月28日決定】
1 事案の概要及び原審の判断
被相続人Aには、妻Bと4人の子(長男C、長女D、次女E、次男F)がいました。Aは農業を営んでおり、長男Cは中学校を卒業後直ちに家業である農業に従事し、妻Gと結婚後も、Aのもとにとどまり夫婦で農業に従事してきました。CはAが死亡する前に死亡し、その後はGが主体となり引き続き農業に従事してきました。
Aの死亡により、妻Bが3分の1、子D、E、Fが各6分の1、Cの子のH、Iが各12分の1の割合で相続しました。
そして、原審は、C及びGの働きは遺産の維持に寄与したものであり、その寄与の程度を50%と認め、Cの相続分を代襲相続したH、Iの取得分について一体として考慮されるべきとして、C及びGの寄与に基づき、代襲相続人H、Iの寄与分を認めました。
これに対して、長女Dは、原審がH、Iに寄与分を認めたことは均分相続分を認めた民法900条に違反する、寄与分を認めるとしてもGの寄与を認めることは許されない等として抗告しました。
2 裁判所の判断
寄与分制度は、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした相 続人に、遺産分割にあたり、法定又は指定相続分を超えて寄与相当の財産額を取得させることにより、共同相続人間の衡平を図ろうとするものであるとし、共同相続人間の衡平を図る見地からすれば、被代襲者の寄与に基づき代襲相続人に寄与分を認めることも、相続人の配偶者ないし母親の寄与が相続人の寄与と同視できる場合には、相続人の寄与分として考慮することも許されると解するのが相当であると判断しました。
3 考察
民法904条の2第1項は、寄与をした相続人に寄与分を与えることを明記しており、寄与行為の主体と寄与分の主体とが一致することを想定しています。
本決定は、①被代襲者の寄与にもとづき代襲相続人に寄与分を認めることができるか、②相続人の配偶者の寄与に基づき(代襲)相続人に寄与分を認めることができるか、という問題につき、いずれもこれを肯定し、寄与行為の主体と寄与の主体が一致しない場合があることを認めました。
もっとも、②については、相続人以外の者の寄与が相続人の寄与と同視でき場合であることを必要としています。
そのため、例えば、相続人である夫が全く別の仕事についており、妻だけが被相続人の営む農業や小売業などを手伝っていた場合のように、妻が夫の手足としてではなく、夫の意思と独立して行為していた場合は、妻の寄与を夫の寄与と同視することは困難といえます。
したがって、冒頭の例においても、相続人の妻が、相続人と交代で被相続人の介護を行っていたり、単身赴任中の相続人に代わって被相続人の介護を担っていたような場合には、妻は、いわば夫の手足として介護に従事しているといえますので、その寄与を相続人の寄与と同視し、相続人の寄与分を認めることができると考えます。
寄与分は、上記のような寄与の主体の問題の他にも、特別の寄与といえるか否か、寄与分の算定等、難しい問題が多いところです。
寄与分についてお悩みの方は、一度、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。