【弁護士による判例解説】「遺産分割審判で裁判所は競売での換価分割を命じる場合」 ~仙台高等裁判所平成5年7月21日決定、東京高裁令和5年12月7日判決を参考に

代表弁護士 多湖 翔 (たこ つばさ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号46487)

こんにちは。相模原の弁護士の多湖です。

遺産分割の相談をお受けしていると、「絶対に共有にはして欲しくないので、競売での分割でも構わないから現金にしてほしい。」というご相談をお受けすることがままあります。

今日は遺産分割審判で裁判所が換価分割を認めてもらうためには何をすればいいのかの解説です。

<不動産の遺産分割の方法>

相続人間での話し合いである遺産分割調停が不成立となると、遺産分割審判といって、裁判官が遺産分割について判断して相続財産を分割するという手続きに移ります。

不動産の分割は、現物分割、共有分割、代償分割、換価分割の4つの方法を取るのが一般的ですが、換価分割というのは、売却してその利益を相続人間で分けるという手法です。

裁判所は終局処分としての審判で競売を命じ、あるいは、中間処分として競売での換価分割(家事事件手続法194条1項)を命じることが出来ます。

法律上は、任意売却についても、必要かつ相当な場合で、相続人の反対がなければ命じることが出来るとされていますが(家事事件手続法194条2項)、そもそも、その場合であれば、代理人の弁護士同士で協力して任意売却をしてしまいますので、あまり使用を想定されるケースは多くありません。

<遺産分割審判でどのような分割方法が取られるか予測が難しい>

不動産は相続人間で協力して任意に売却する方が高く売却できるため、一般的には最初から競売での分割を希望される方はほとんどおりません。

多岐に渡る相続の問題で折り合うことが出来ず、遺産分割審判に移ると、自分の利害関係と関わりがない者が、不動産の帰属について「このように分けなさい。」と判断してしまいます。

そうなると、自分は望んでいないのに、裁判官の判断によって「共有になってしまった。」ということがあります。

元からの相続人同士の関係性、あるいは遺産分割を経た後の相続人の関係性から、相続人同士のやり取りを一切望まないという方が多くいらっしゃるところ、共有だけは勘弁してほしいとおっしゃる方が多いのです。

共有になると税金の支払い、不動産の管理、火災保険、光熱水費の支払い、修繕費用の支出、万が一の際の第三者への賠償責任など、ありとあらゆる問題について、相手と協議をしなければならないためです。

それらを避けたい場合に望まれるのが、「競売での換価分割」です。

遺産分割で共有になった場合でも、後日、「共有物分割請求」という手続きが民法256条1項で認められているところ、その手続きの中で任意売却することを裁判所から勧められ、まとまることもあるのですが、何年も遺産分割で争った末に、さらにそのような訴訟手続きを経るのは避けたいということで、遺産分割の手続段階で競売での分割を希望される方もいます。

しかし、遺産分割審判の判断を下すのは裁判官ですから、どのような内容の審判を出されるか予測が難しい場合があります。

そのため、競売での換価分割を求めるためには何に気を付けて遺産分割審判を進めればいいか解説をします。

<家事事件手続法194条1項の要件>

家事事件手続法194条に基づく競売での換価は、中間処分としての換価とされていて、「終局審判において遺産の換価が予想され、最終的な分割方法を決定するためにあらかじめ換価しておくことが相当な場合、遺産が経済状況によって交換価値を減ずるおそれがあったり、変質しやすいものである場合や、管理に相当な費用を要する場合」などの使用が想定されています。

そのため、かなり例外的なケースを想定しているといえ、実務としては終局処分としての審判での競売での換価分割を求めることが一般的かもしれません。

<競売での換価分割を目指すためになすべきこと>

遺産分割審判でどのような分割方法の判断をするかは、現物分割の可能性を最初に検討するなど、一部のルールを除き裁判官の裁量にゆだねられています。

しかしながら、競売での換価分割を目指すうえで、裁判所の判断過程を学んでおくことは非常に重要ですから、いくつかの審判例、裁判例の紹介と、検討をしたいと思います。

仙台高等裁判所平成5年7月21日決定

この決定は、原審である仙台家庭裁判所が、遺産に含まれる一部の相続人が居住している土地について、売却代金から競売費用を控除した残金を相続人間で分配することを命じたところ、競売に反対する相続人が即時抗告を行い、本件土地について代償分割の可能性について十分な検討がなされていないとして、代償分割の可能性について吟味するように差戻しをした事案です。

居住する相続人の権利に十分配慮するべく、代償分割の吟味を慎重に検討していることからも、相続人のいずれかが反対している場合には競売での換価分割は最後の手段として裁判所がとらえていることがわかります。

そのため、競売での換価分割を求める側としては、競売をしたとしても他の相続人の権利関係を害さないこと、あるいは害する場合でも代償分割の審理についてもしっかりなされるように裁判所に促していくことが必要です。

東京高等裁判所令和5年12月7日決定

この決定は、寄与分の主張をしていた原審の申立人の主張が認められず、即時抗告をした事案であり、分割方法が争われていたわけではないものの、東京高裁は、現物分割が難しいこと、一部の相続人は不動産の取得は希望しているが代償金の支払いが難しいこと、抗告人は共有にすることもやむを得ないという意思を表明しているが、各当事者による共有とするだけでは遺産を巡る紛争の根本的解決にならないと判示して競売を命じています。

この決定からは、現物分割が難しい場合には、取得希望者がいる場合にはまず代償分割を検討し、共有状態になった場合に争いが続いていく場合にはそれを避ける必要があるかどうかを検討していることがわかります。

<まとめ> 

以上から、終局の審判において、競売での換価分割を求める場合、競売での換価分割を取ることに争いがあるのであれば、①代償金での取得が難しいこと、②共有状態になった場合に遺産係争が続きどの程度の相続人間で不利益が生じていくか③競売しても他の相続人の権利関係を害さないことなどを丁寧に主張立証していくことで、期待する審判内容に近づいていくことが出来ることがわかります。

遺産分割は、相続を扱った実績を多数持つ弁護士の専門的、戦略的知見が必要になりますから、一度、相続問題の専門家である弁護士に相談をすることをお勧めします。

以 上

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