【弁護士による判例解説】「死亡に伴う公的給付と相続放棄」

弁護士 八幡 康祐 (やはた こうすけ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号57699)

人が死亡すると,各種公的な給付金の受取りについて,相続人に案内が届くことがあります。こうした給付金を受け取っても相続放棄を行えるのか,ご説明します。

1 法定単純承認(民法921条1号本文)

相続人が「相続財産の全部又は一部を処分した」場合,自動的に相続を承認したことになり,もはや相続放棄はできなくなります(同条1号本文)。

したがって,うっかり亡くなった親の財産を処分してしまうと,莫大な借金があったとしても,相続放棄ができなくなってしまう危険があるので注意が必要です。

さて,相続が開始すると,自治体等から被相続人死亡に伴う各種給付金を受け取る意思があるか,相続人に対して案内が届くことがあります。

こうした給付金を受け取ってしまうと,「相続財産の全部又は一部を処分した」場合に該当するとして,相続放棄ができなくなってしまうのでしょうか。

2 非相続人の未支給年金の受取り

日本年金機構の年金は,原則として偶数月の15日に支払われます。例えば,8月15日に支払われた年金は,6月分と7月分です。

また,年金は死亡月まで支払われます。

そのため,例えば,8月14日に死亡した場合,6月分7月分8月分について,未払いの年金が発生します。

この未支給の年金を相続人が受け取ることは,法定単純承認に当たるのでしょうか。

結論から述べると,法定単純承認には当たらず,相続人が未支給年金を受け取ったとしても,相続放棄をすることは可能です。

年金に関する法律によると,未支給年金の受給権者及びその順位は,生計を同一とする①配偶者(内縁も可),②子,③父母,④孫,⑤祖父母,⑥兄弟姉妹,⑦これら以外の3親等内の親族となっています(国民年金法19条1項,同4項,同施行令第4条の3の2)。

つまり,受給権者である相続人は,相続を経ることなく未支給年金を受給することができますから,相続放棄をしても受け取ることができるのです。

3 遺族年金の受取り

一定の要件を充たしていると,受給権者が死亡した場合,受給していた年金を基礎として,遺族年金が支払われます(国民年金法37条,37条の2)。

この遺族年金は,年金受給権者の死亡後,残された遺族の生計を保護するためのものであり,受給権者は要件を充たす遺族ですから,これもまた相続を経ることなく,受給することができるため,相続放棄をしても受け取ることができます。

4 国民健康保険・後期高齢者医療制度における葬祭費の受取り

国民健康保険(国民健康保険法58条1項)や後期高齢者医療保険(高齢者の医療の確保に関する法律86条1項)との関係で,葬祭費を受け取れる場合があります。

各自治体の条例によると,葬祭費のこれらの葬祭費の受給権者は「葬祭を行う者」であり(相模原市国民健康保険条例9条1項等),これもまた相続を経ることなく,受給することができるため,相続放棄をしても受け取ることができます。

5 高額医療費還付金の受取り

⑴ 世帯主が被相続人以外の場合

高額医療費制度というのは,医療費の自己負担額(窓口で支払う額)が一定額以上となる場合に,その額を超えた部分の費用を払い戻したり,窓口での支払いを不要としたりする制度です。

高額医療費の受給権者は世帯主ですから(国民健康保険法57条の2),世帯主以外の方が亡くなり,その方の高額医療費が還付される場合には,相続を経ることなく,受給することができるため,相続放棄をしても受け取ることができます。

⑵ 世帯主が被相続人の場合

一方,世帯主が亡くなり,その方の高額医療費が還付される場合,その還付金は世帯主である被相続人の財産となりますから,相続財産となります。

したがって,相続を経なければ,相続人は取得できませんので,相続放棄をすると受け取ることはできません。

この点は,そもそも受け取ることができないので,法定単純承認のケースではありませんが,相続放棄と公的給付に関係するものとして,ご説明させていただきました。

以上

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