【弁護士による判例解説】「遺産分割の代償金の支払を分割にすることが出来るか。」 神戸家裁尼崎支部昭和48年7月31日審判 福岡高裁昭和40年5月6日決定

代表弁護士 多湖 翔 (たこ つばさ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号46487)

1 代償金が払えない。

「遺産の中に不動産は多く残っているが、現金が少ない。」という状態は、相続問題において非常に多くみられる現象です。遺産の中に現金が少ないと、土地を相続人間で分割することになり、土地ごとに価額が大きく違う場合には、法定相続分通り分割するためには、価値の高い土地を相続する者が代償金の支払をしなければならないことがあります。

しかしながら、相続人は普通のご家庭であることが多いです。そうすると、日々の給料は家族の生活のために使われており、不動産を相続するために数百万円、数千万円の代償金を支払うことは困難だったりします。

2 代償金の支払方法

相続において、代償金をどうしても支払わなければならない場合で、自己資金で支払うことが難しい場合はどうすればいいでしょうか。

まず、一つ目は不動産を担保に入れた金融機関からの借り入れです。金融機関には様々な種類があり、最近では、多少利率は高くなるものの、相続の代償金の準備に特化した会社などもあります。

二つ目は、分割での支払の申し入れです。基本的に代償金の支払は一括ですが、話し合い(金額や分割年数)によっては、分割での支払いを相手方に認めてもらえる場合もあります。

遺産分割の話し合いで相手方が同意すれば、代償金の分割払いが認められるとしても、同意がない場合、審判などで裁判所に分割払いを認めてもらうことが出来るかについて今日は解説します。

3 審判例の解説

 ⑴ 代償金の分割払いの支払を否定した審判例

福岡高等裁判所昭和40年5月6日決定は、「原審判が抗告人に金銭の一時払いを命じたのは不当である。」との抗告人の主張について「遺産の分割は共同相続人の相続分に応じてこれを分割すべきものとされ、民法906条に示された分割の基準によっても、右相続分を変更することはできないのであるから、抗告人主張の如く自己の相続分の超える価額を有する不動産の現物分割を受けた相続人が他の相続人に支払うべき右超過価額についてのみ一定期間支払を猶予し、あるいは分割支払の利益を受けることは相続人間の公平を害し、相続分に応じてこれをなすべきものとする遺産分割の本旨に反する」と判示し、裁判所が分割払いを認めることは、その一部の相続人を有利に扱うことになるから、公平に行われるべき遺産分割の趣旨に反するとしました。

 ⑵ 代償金の分割払いの支払を肯定した審判例

次に、かなり古い審判例ですが、代償金の分割払いを認めた審判例(神戸家裁尼崎支部昭和48年7月31日審判)をご紹介します。

この事案は、被相続人の子ら3名が遺産分割調停及び審判で争った事案で、そのうちの一人は、相続持分を放棄し、相続人二人の争いになりました。

申立人は法定相続分に従った遺産分割を認めました。裁判所は、遺産として残された不動産がいずれも相手方及びその家族の居住用不動産や使用している倉庫であるとして、相手方が現物で相続する必要性を認め、相手方が申立人に対して、代償金として627万8448円を相手方に対して支払う必要性を認めた上で、申立人及び相手方の双方の収入や生活状況、相手方が多額の借金返済をしていることなどを加味して、昭和48年8月から同49年8月までは毎月5万円、同年9月から完済まで毎月10万円(最終回は12万8448円)及び各分割金に対する年5分の割合による遅延損害金を支払うように命じました。

東京高裁昭和53年4月7日決定も、結果的には分割払いを認めていませんが、特段の事情がある場合には分割払いが認められるかのような判断をしていますので、理論上、全く分割払いが認められないというわけではなさそうです。

しかしながら、実務では裁判所の審判において、代償金の支払を分割払いとするのは稀です。この特段の事情というのはかなり高いハードルがあるということは理解しておいた方がよさそうです。

4 まとめ

以上の通り、審判例などを参考にすると、代償金の分割払いについては「基本的に代償金は一括払い、かなり極端な例外がある場合に分割払いが認められることがあるかもしれない。」くらいに考えたおいた方がよさそうです。

以上

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