【弁護士による判例解説】「被相続人の土地の無償使用と特別受益」 東京地裁平成15年11月17日判決

弁護士 八幡 康祐 (やはた こうすけ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号57699)

今回は、被相続人の土地を相続人の1人が無償使用している場合に、それが特別受益として考慮されるのかご説明します。

1 事案の概要

本判決の事案を簡略化して説明すると、被相続人Aが亡くなり、Aは遺言で、妻と3人の子らのそれぞれに遺産を分け与えました。

その結果、三男Yに渡った遺産のみが法定相続分を越えたところ、二男Xは自分の遺留分が侵害されていると主張して、Yを訴えたのです。

これに対して、Yは、被相続人Aの所有していた土地(以下、「本件土地」といいます。)上に、X所有のアパート等が存在していることを指摘し、XはAの生前から無償で本件土地を使用していたのだから、その分を遺産の前渡しである特別受益として考慮されるべきであると反論しました。

つまり、Aの遺産を無償で使用していた利益を遺産の前渡しである特別受益として考慮すると、Xの遺留分は侵害されていないと主張したのです。

2 遺留分と特別受益

⑴ 民法は、相続人が、被相続人との身分関係に応じて、相続財産から一定の割合を取得することを保障しており、これを遺留分制度といいます(民法1042条)。

例えば、本件の事案でいうと、Aの遺言の内容に関わらず、相続財産のうち、妻は4分の1を、XYを含む3人の子らは12分の1を取得する権利が保障されています。

したがって、Xは自分が遺言で取得した遺産が、遺留分である全体の12分の1を下回る場合、遺産を多くもらってXの遺留分を侵害したYに対し、侵害分を請求することができるのです(民法1046条1項)

⑵ 一方で、相続人が、生前に被相続人から受けた利益のうち、遺産の前渡しと評価し得るものを特別受益といいます(民法903条)。

この特別受益は、遺留分がどれだけ侵害されているかを計算する際にも、考慮されます(民法1046条2項1号)。

たとえば、本件の事案でXが生前にAから、遺産の前渡しと評価し得るような利益を受けている場合、これを特別受益として考慮した結果、遺産の12分の1を超える利益を得ていたと評価されると、遺留分は侵害されていないという結論になります。

⑶ 本件の事案では、Xが生前からAの土地を無償で使用していた利益が、特別受益に当たるといえるか否かが問題となったのです。

3 本判決の判断

本判決は、まずXによるAの土地の無償使用の財産的価値について「受けた利益は本件土地の使用貸借権の価値と解するのが相当である。」と判断し、相続開始時点の「本件土地の更地価格を算出し、これに15%を乗じた価格」を本件土地の使用賃借権価格とすべきであると判断しました。

これによると、Xが生前Aの土地を無償使用したことによって受けた利益は1935万円とされました。

そして、Xが受けたこのような利益について、「原告の生活の援助のために本件土地を原告のアパート経営のために使わせようとしていた」こと、「本件土地の使用貸借権は、相続開始時において2000万近い価値」があったこと等を認定し、「まさに原告の生計の資本の贈与であるといえ、特別受益(民法903条1項)に当たるというべきである」と判断しました。

その結果、Xが受けたこのような利益を考慮すると、Xの遺留分は侵害されていないとされ、Xの請求は棄却されることになりました。

4 本判決の意義

本判決は、被相続人の土地を相続人の1人が無償使用している場合に、その利益が特別受益として考慮され得ること、その利益の評価は相続開始時の価格を基準とすべきことを明らかにしました。

また、利益の評価方法として土地の更地価格に15%を乗じるという、評価の目安を示しました。

5 まとめ

このように、遺留分の計算には、事案によって複雑化しますので、遺留分が侵害されている可能性がある場合には、一度弁護士に相談することをお勧めします。

以上

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