【改正法解説】「具体的相続分に基づく遺産分割の期間制限」

弁護士 根岸 小百合 (ねぎし さゆり)
多湖総合法律事務所 代表弁護士
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号44683)
保有資格 / 弁護士

遺産分割自体に期間制限はありません。

しかし、期限がないことにより、相続が開始してもいつまでも遺産分割がなされず、不動産が数世代前の名義人のまま放置され、現在の所有者が分からずに、用地買収や相隣問題等の解決が難しくなる等という問題が生じていました。

そこで、遺産分割を促進するための方策の一つとして、令和3年民法改正により、特別受益や寄与分の主張、すなわち具体的相続分の主張は、相続開始から10年の期間制限が設けられました(令和5年4月1日施行)。

【改正の内容】

民法新904条の3本文に「前三条〔民法903条(特別受益)から民法904条の2(寄与分)〕の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない」との規定が新設されました。

遺産分割を行う場合、相続人は、特別受益(民法903条、904条)、寄与分(民法904条の2)の主張をすることができ、これらの主張に基づき、具体的相続分を決めて遺産分割を行います。

しかし、上記規定の新設により、一定の例外を除き、相続開始から10年を経過した後に行う遺産分割においては、特別受益及び寄与分の主張ができなくなりました。

したがって、当該期間経過後は、具体的相続分ではなく、法定相続分又は遺言書に基づく指定相続分で遺産分割を行うことになります。

なお、本規定は、施行日前に相続が開始した遺産分割にも適用されます。ただし、混乱を防ぐため、少なくとも施行日から5年を経過するまでは適用されないという猶予期間が設けられています。

したがって、施行日の5年前より以前に開始した相続については、一律、施行日から5年(令和10年4月1日まで)は改正規定が適用されません。

一方、施行日の5年前の日以降に開始した相続については、相続開始から10年の期間制限となります。

【例外の場合】

1.上記の原則の例外として、以下の二つの場合が規定されています(民法904条の3ただし書き)。

①相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求(遺産分割調停の申立て、遺産分割審判の申立て)を行ったとき。

なお、調停又は審判の申立てを取り下げた場合は、初めから事件として係属していなかったものとみなされるため、その時点で既に相続開始から10年を経過している場合には、特別受益や寄与分の主張をしていた相続人が不利益を被る恐れがあります。

そこで、相続開始から10年経過後に、遺産分割調停又は遺産分割審判を取り下げるには、相手方の同意を得なければならないこととされました(家事事件手続法199条2項、273条2項)。

②相続開始の時から始まる10年の期間満了前6か月以内の間に、遺産分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

この点、「やむを得ない事由」は、客観的な状況により判断され、基本的に法律上の障害がないときは「やむを得ない事由」に当たらないとされています。

したがって、遺産分割を禁止する定めがある場合、相続人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるが、成年後見人が選任されていない場合などは、やむを得ない事由に当たるとされる一方、相続人が病気療養中だったとか、海外にいた等の場合はやむを得ない事由に該当しないと考えらえます。

2.10年経過後に、相続人間で具体的相続分による分割をするとの合意がなされた場合

規定にはありませんが、私的自治の観点から、上記の合意がなされた場合には、合意に基づいて遺産分割を行うことは可能と考えられます。

以上のとおり、今回の改正によって、遺産分割自体に期間制限が設けられることはありませんでしたが、相続開始から10年を経過した後は、原則として、特別受益・寄与分の主張ができなくなりました。

遺産分割は、遺産の範囲など遺産の前提問題に関して争いがある場合もあり、話し合いが長期化することも多いです。話し合いが平行線のまま、気付いたら10年を経過してしまうというケースも考えられます。

遺産分割の話し合いがなかなか進まない場合には、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。

以上

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