【弁護士による判例解説】「再転相続と特別受益」 最高裁平成17年10月11日決定

弁護士 八幡 康祐 (やはた こうすけ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号57699)

今回は、遺産分割が未了の段階で、更に相続が発生した場合の、特別受益の取扱いに関する判例をご紹介します。

1 特別受益の持ち戻しとは

相続人が、生前に被相続人から受けた利益を、遺産の前渡しと評価し、これを遺産に組み入れることを特別受益の持ち戻しといいます(民法903条)。

特別受益の持ち戻しをすることで、たとえば被相続人から生前に高額の財産を譲り受けた相続人と、そうでない相続人との間の不平等を解消するわけです。

いかなる受益も持ち戻しの対象となるわけではなく、民法は「遺贈」と「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与」に限定しています。

たとえば、居住用不動産の贈与や居住用不動産取得のため金銭の贈与は、「生計の資本」として、特別受益に当たるものの、月数万円程度の生活費の援助は、親族間の扶養義務の範囲内の贈与と評価され、特別受益に当たらないとされるケースがほとんどです。

2 判例の事案

本判決の事案を簡略化してご説明すると、夫婦ABにはX、Yという子がいました。

Aが死亡し、B、X、Yの3名で遺産分割をしようとしていたところ、遺産分割が未了の段階で、Bが亡くなってしまいました。

なお、Aには遺産として固有の不動産等がありましたが、Bには固有の遺産がありませんでした。

これにより、X、Yは、両親であるAの相続とBの相続について遺産分割をしなくてはならなくなり、XはYに対して、遺産分割の審判を裁判所に申し立てました。

この審判において、YはBから特別受益を受けているとの主張がなされました。

では、Aの遺産に対するBの相続分を承継した部分について、YのBからの特別受益を考慮することはできるのでしょうか。

3 原審の判断

本件の原審は、Bの遺産分割について、Aの遺産に対するBの相続分は、Aの遺産を取得できるという抽象的な法的地位であり、遺産分割の対象とはならず、当然にXとYに承継されるものであり、遺産分割に関する特別受益の規定は適用されないと判断しました。

そして、Aの遺産分割については、Aからの特別受益のみを考慮されるべきであると判断しました。

つまり、Aの遺産分割に関して、YがBから受けた特別受益は考慮しないと判断しました。

4 本判例の判断

これに対して、本判決は、「Bは、Aの相続の開始と同時に、Aの遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており、これはBの遺産を構成する」と判断し、Aの遺産に対するBの相続分は、遺産分割の対象となるとしました。

そして、「これをBの共同相続人である抗告人(X)及び相手方ら(Y)に分属させるには、遺産分割手続を経る必要」があるとし、「共同相続人の中にBから特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは、その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない」と判断しました。

つまり、Aの遺産に対するBの相続分が遺産分割の対象となる以上、BのYに対する特別受益を考慮すべきであり、その持ち戻しがなされなくてはならないとしたのです。

5 本判決の意義

本判決は、本件のような再転相続において、共同相続人が取得する未分割の共有持分権は、具体的な財産権として遺産分割の対象となることを明らかにした点に意義があります。

この結果、本件のような再転相続における特別受益の取扱いについて、特別受益の持ち戻しをしなくてはならないことが明らかとなりました。

6 まとめ

ただでさえ特別受益の問題は複雑であるにもかかわらず、それが再転相続における特別受益となると、さらに複雑さを増します。

特別受益の持ち戻しが問題となる場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

以上

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