【弁護士による判例解説】療養看護型の寄与分の計算方法 ~大阪家庭裁判所平成19年2月26日審判

代表弁護士 多湖 翔 (たこ つばさ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号46487)

1 療養看護型の寄与分とは

相続における寄与分には、①療養看護型、②扶養型、③家事従事型、④金銭出資型、⑤財産管理型があると言われています。遺産分割調停などで主張する場合には、自分が主張している寄与分がどの類型の寄与分なのかをしっかり明示しなければなりません。

本日は、実務で一番多い①療養看護型の寄与をご説明いたします。

2 大阪家庭裁判所平成19年2月26日審判

⑴ 事案の概要

被相続人が死亡し、相続が開始したことにより、申立人Bと申立人Bの配偶者で被相続人の養子になっていた申立人Aが、C、及びDを相手方として遺産分割審判を開始しました。

申立人Bと申立人Aは、婚姻当初から被相続人宅で同居し、被相続人らの家事を担当していました。

平成8年頃から、洗髪の介助、排せつの介助、失禁後の掃除などが始まり、風呂場での転倒事故で被相続人の具合が悪くなってからは、独力での歩行が困難となり、平成12年9月に要介護2(平成13年2月に要介護3)と認定され、申立人Bによる介護の必要が生じ、これらを寄与行為として主張しました。

これに対し、相手方らは、自分たちも介護を手伝ったことや、申立人Bが被相続人から小遣いを多くもらっていたことなどをもって、専従性、無償性が否定されると主張しました。

⑵ 裁判所の判断

ア 寄与の認定

裁判所は寄与分を認めるためには、いわゆる専従性、無償性を満たし、一般的な親族間の協力義務を超える特別な寄与行為に当たると評価できることが必要であると述べた上で、結婚当初から平成8年ころまでに行っていた被相続人宅の家事労働については、同居の親族の協力義務を超えるものではないとして寄与分を認めませんでした。

しかし、平成8年以降の洗髪や排せつの介助、失禁後の後始末などの身体介助の側面があった部分については評価要素(金額の加算事由)とすることを認めました。

そして、被相続人が風呂場での転倒をきっかけに独力での歩行が難しくなった平成12年8月以降の介護については、介護が申立人Bの生活の大部分を占めていたとして専従性を認め、他の相続人より多くの小遣いを被相続人からもらっていたとしても介護の貢献の対価と評価できるほど多額でない限りは無償性も否定されないとして、療養看護による寄与を認めました。

イ 寄与分の計算方法

その上で、申立人Bに認められる寄与分について、まず、寄与行為を行っていた期間(平成12年8月24日から平成13年12月末)を認定し、合計で486日間であると認定しました。

また、看護師家政婦紹介所が看護師等を派遣する際の標準賃金表をもとに、泊込勤務が1万8000円、午前9時から午後5時までの通勤勤務が1万3000円であり、ケアワーカーの場合は、泊込勤務が1万2100円、午前9時から午後5時までの日勤が7800円であると認定した上で、①あくまで家族介護であること、②少人数による在宅介護であるため、完璧な介護状態が維持できていたわけではないこと、③申立人Bが他の親族より多額の小遣いを得ていたこと、④昼間は、他の親族も交代で被相続人の介護を手伝っていたこと、⑤深夜の排泄介助がしばしばあったため、負担感が増したこと、⑥被相続人の体型などに鑑み、申立人Bによる一日当たりの介護費用を1万2000円から1万3000円と認定し、介護期間をもとに600万円程度と算出した上で、平成8年4月以降の洗髪や排せつ等の介助を考慮し、さらに寄与分を増額修正し、合計で750万円であると認定しました。

3 一般的な介護療養型の寄与分の計算方法の解説

療養看護型の寄与分は、療養看護行為の1日当たりの報酬相当額を定め、実際に行われた看護日数をかけ、これに裁量割合(寄与行為者が有資格者ではないことや、その他の介護状況等による修正)を乗じることで算出するのが一般的です。

採用している報酬基準こそ現在の裁判例とは異なりますが、考え方は同じです。被相続人に対して行った寄与行為に最も類する報酬基準を参考に寄与分を定めます。

介護保険制度の施行後である現在では、介護保険における介護報酬が用いられることが多く、指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)の指定居宅サービス介護給付費単位数表(平成26年度介護報酬改定前のもの)などが用いられたりします(横浜家庭裁判所川崎支部平成29年5月31日審判、東京高裁平成29年9月22日決定参照)。

部分的に痰の吸引などの医療的な行為が含まれる場合には、看護師の日当基準を用いて寄与分を加算することもあります。

4 寄与行為を認定してもらう上で大事なこと

どのような看護や介護を行ったかは必ず争いになります。

また、相続において寄与分を争っていくのも長い時間がかかります。

身内の看護や介護を引き受ける方でいつか生じる相続においてその点を加味して欲しいと希望される方は、まず、要介護者の方(及び他の兄弟等)と相談し、自分の看護や介護に見合う遺言書をしっかりと作成して頂くと良いです。そうすれば、相続で争いになることを多くの場合、避けることが出来ます。

遺言を作成してもらうことが難しい場合でも、看護師が看護日誌を、介護士が介護日誌を作成しているように、介護日記をつけるとよいでしょう。

写真や買ったものの領収書を貼付しながら、その日にあった出来事などを書きこんでいくと、自分自身の備忘録や他の相続人に状態の説明をするためにも利用できます。

以 上

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