【判例解説】借主が死亡したら土地を返さなきゃいけないの?

弁護士 根岸 小百合 (ねぎし さゆり)
多湖総合法律事務所 代表弁護士
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号44683)
保有資格 / 弁護士

被相続人が無償で土地を借りて自分で家を建てて住んでいたような場合、被相続人の死亡により、当該土地の使用借権はどうなるでしょうか。相続人は、建物を壊して貸主に土地を返さなければならないのでしょうか。

この点に関して、裁判例をご紹介しながらご説明したいと思います。

1 使用貸借の借主の地位

使用貸借は、借主の死亡によって終了するとされています。

(参考)民法第597条3項

これは、使用貸借が貸主と借主の間の緊密な信頼関係に基づくもので、通常は借主その人限りとして無償使用を認めたもので、借主が死亡した場合、その権利は相続されないと考えられているためです。

したがって、借主が死亡した場合、原則として、使用貸借は終了し、使用借権は相続人に引き継がれません。

しかし、どのような場合にも常にこのように考えられるのでしょうか。

この点については、以下の裁判例が参考になります。

2 東京地方裁判所平成5年9月14日判決

(1)事案の概要

本件は、親族間の建物所有を目的とする土地の使用貸借契約の終了が問題となった事案です。

登場人物は、父A、母B、長男X及び次男Yです。

父Aは、長男Xが所有する複数の土地(以下「本件各土地」)上に、父A名義で2棟の建物を、父Aと母Bの共有名義で1棟の建物を建て(以下「本件各建物」)、長男Xは、父A、母Bに本件各土地をそれぞれ無償で貸付けました。

その後、父A、母Bの順に死亡しましたが、父A及び母Bは、それぞれ公正証書遺言を作成しており、本件各建物及び本件各土地の使用借権を次男Yに相続させる旨の遺言をしました。遺言に基づき、本件各建物は次男Yの所有となりました。

長男Xは、次男Yに対して、本件各土地の所有権に基づき、本件各建物の収去及び本件各土地の明け渡しを求めました(なお、本件には、次男Yが原告となり、長男Xが代表を務める会社を被告として、次男Yが所有する別の土地の所有権に基づく建物収去土地明渡請求も提起され併合審理されています)。

長男Xは、請求の原因の一つとして、本件各土地の当初の借主であった父A及び母Bの死亡による使用貸借契約の終了を主張しました。

(2)裁判所の判断

本件について、裁判所は、土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべきであって、特段の事情のない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにならないというべきであると判断しました。

3 考察

このように、上記裁判例(以下「本件裁判例」)は、親族間の建物所有目的の土地の使用貸借契約において、借主死亡による使用貸借契約の終了を認めませんでした。

前述のとおり、民法597条3項は、使用貸借が借主その人を重視してその人に対してのみ貸与される場合が多いことを念頭において当事者の通常の意思を推定した規定とされています。

上記裁判例以前にも、建物所有を目的とする土地の使用貸借については、借主の死亡により契約が終了するとするのは当事者の通常の意思に反するとして、民法599条(現597条3項)の適用を排除した裁判例がいくつかあります。

しかし、本件裁判例は、さらに進んで、一般論として、当事者の意思とはかかわりなく、建物所有を目的とする土地の使用貸借は、借主の死亡によっては、特段の事情がない限り、使用貸借契約は終了しないと判示しました。すなわち、建物所有目的の土地の使用貸借の場合は、民法599条(現597条3項)について、原則として適用を否定したのです。

本件裁判例は、親族間の紛争を背景とした事例判断ではありますが、裁判例の傾向からすれば、少なくとも、建物所有目的の土地の使用貸借契約については、借主の死亡のみでは原則として使用貸借契約は終了しないと考えておくべきであると思われます。

使用貸借は、無償で借りているだけに、借地借家法等借主保護の特別法もなく、一般的に弱い権利と言われますが、一定の場合には、建物の存続、居住の安定等の利益が重視され、借主保護が図られる場合があります。

相続による代替わりなどをきっかけに、これまで無償で借りていた土地について、突然明け渡しを求められるようなことは少なくないと思います。

無償で借りた土地だから返すしかないとあきらめてしまう前に、一度、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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