【弁護士による判例解説】「遺産分割協議後の相続放棄」

弁護士 根岸 小百合 (ねぎし さゆり)
多湖総合法律事務所 代表弁護士
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号44683)
保有資格 / 弁護士

1.相続放棄と法定単純承認

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内の熟慮期間内であれば相続放棄をすることができます(民法915条1項本文)。

もっとも、相続人が、「相続財産の全部又は一部を処分」した時には、単純承認したものとみなされ(法定単純承認。同法921条1号)、相続放棄をすることができなくなります。

それでは、遺産分割協議をした後に、被相続人に多額の債務があることが発覚した場合に、改めて相続放棄をすることができるでしょうか。

遺産分割協議が、上記にいう相続財産の「処分」に当たるかが問題となります。

2.大阪高裁平成10年2月9日決定

(1)事案の概要

被相続人Aは、平成9年4月30日に死亡し、相続人は、長女X1、四男X2、5男X3、妻B、長男Cの5名です。X1ら5名は、平成9年8月1日、妻Bと長男Cの2人に遺産の全部を取得させる旨の遺産分割の合意をし、その旨の遺産分割協議書を作成しました。

しかし、その後、同年9月29日、X1、X2、X3は、債権者から請求を受けたため、長男Cから事情を聴取したところ、被相続人Aに総額約5000万円の債務があることを知りました。

そこで、X1、X2、X3は、平成9年11月1日、相続放棄の申述の申立てを行いました。

原審は、X1らは、遺産分割協議により遺産について処分行為をしたもので、法定単純承認事由に該当するとして、相続放棄申述の申立てを却下しました。

これに対して、X1らは、本件遺産分割協議は実質的には相続放棄の趣旨であり、単純承認事由とみるべきではないとして抗告しました。

(2)裁判所の判断

X1らの抗告に対して、大阪高裁は以下の通り判示しました。

X1らは、遺産分割協議をしており、当該協議は、X1らが相続財産につき相続分を有していることを認識し、これを前提に、相続財産に対して有する相続分を処分したもので、相続財産の処分行為と評価することができ、法定単純承認事由に該当する。

しかし、X1らが多額の相続債務の存在を認識していれば、当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ、X1らが相続放棄の手続を採らなかったのは、相続債務の不存在を誤信していたためであり、被相続人とX1らの生活状況、Cら他の共同相続人との協議内容の如何によっては、遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないとみる余地がある。

必要な調査をすることなく、法定単純承認事由があるとして本件申述を却下した原審判には、尽くすべき審理を尽くさなかった違法がある。

3.考察

上記裁判例からは、遺産分割協議が成立すれば、原則、相続財産の処分と評価され、法定単純承認にあたり相続放棄ができないが、特別な事由がある場合(遺産分割協議が錯誤で取消しとなる場合等)には、単純承認の効果は発生せず、例外的に相続放棄が認められる場合があるということになります。

遺産分割協議の錯誤取消しが認められるためには、「錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」(当該錯誤がなければ法律行為をしなかったと認められ、かつ、一般的にみても当該錯誤がなければ法律行為をしなかったであろうこと)であって、かつ、錯誤に陥ったことに重過失がないことが必要となります。

このうち、重過失の有無については、具体的な事情に基づき判断されることになりますが、当該相続人の立場、能力、被相続人との関係性等に鑑みて容易にできる調査を怠っていた等の場合には重過失があるとされ、錯誤取消しが認められない可能性があります。

このように、遺産分割後に相続放棄を行う場合には、遺産分割協議に至る経緯を詳細に分析し主張する必要があり、また、熟慮期間の起算点等問題となる事項が多くあります。

遺産分割協議後に思わぬ債務が発覚したため、相続放棄をしたいという場合には、お早目に弁護士にご相談ください。

以上

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