【弁護士による判例解説】「相続させる遺言と民法899条の2」 最高裁判所平成14年6月10日判決

弁護士 八幡 康祐 (やはた こうすけ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号57699)

今回は、よく用いられる「○○に相続させる」との遺言に関する判例を題材に、平成30年民法改正により新設された民法899条の2についてご紹介します。

1 事案の概要

Aは、妻であるXに対して、本件不動産の権利一切を相続させる旨の遺言を残し、死亡しました。これにより、Xは本件不動産の権利一切を取得するに至りました。

ところが、XA間の長男であり法定相続人の1人であるBの債権者Yが、Bの代わりに、本件不動産について、Bが法定相続分である2分の1の権利を相続した旨の登記手続を行った上、そのBの2分の1の本件不動産の持分に対して、強制競売を申立て、これを差押えてしまいました。

これに対して、Xは、本件不動産の取得について登記手続をしていなかったものの、遺言によって本件不動産の権利一切を取得したのは自分であるとして、Yが申し立てた強制執行等の排除を求めて、訴訟提起しました。

2 本判決の判断

裁判所は一審、二審そして本判決ともにXの主張を認めました。

本判決はその理由として、まず最高裁平成3年4月19日判決を引用し、「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」ことを確認しました。

つまり、相続させる旨の遺言がなされた場合、特段の事情のない限り、遺産分割協議をせずとも、当該相続人Xが本件不動産を承継することになります。

次に本判決は、最高裁昭和38年2月22日等を引用して、「「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。

そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる」ことを確認しました。

つまり、本件の相続させる旨の遺言により、第三者であるYは登記を経ていても無権利者とされ、Xは登記が無くともYに対して本件不動産の権利を主張できることになります。

3 平成30年民法改正による修正

本判決のような判例の考え方によると、相続させる旨の遺言で本件不動産の権利を取得したXは、登記をしないまま第三者に対して本件不動産の権利を主張できることになり、Xはかなり強い立場に置かれることになります。

ところが、これでは遺言により利益を受ける相続人が登記手続を行おうとせず、実際の権利状態と登記内容に不一致が生じ、不動産登記制度の信頼が損なわれる結果となります。

また、本件のYのような相続債権者には、遺言の有無や内容を知る手段に乏しいため、債務者である相続人が取立てに応じたとしても不測の損害が生じるおそれもあります。

そこで、平成30年民法改正により新設された民法899条の2で、法定相続分を超える部分については「登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」と定められることになりました。

これにより、たとえば相続をさせる旨の遺言により不動産を取得した相続人は、その旨を登記しなければ、自己の法定相続分を超える分について第三者に不動産の取得を主張できないことになります。

4 本判決の事例の検討

このような民法899条の2を踏まえ、本判決の事例を検討してみます。

本件でXは本件相続させる旨の遺言により、本件不動産の権利一切を取得しているものの、その旨を登記していません。

そうすると、本件不動産のうち、Xの法定相続分である2分の1を超える部分は、第三者であるYに対してその取得を主張できないことになります。

したがって、Xは本件不動産の2分の1を超える部分については、Yの本件不動産に対する強制執行を排除できないことになります。

このように、民法899条の2が適用されると、本判決と異なる結論が導かれることになります。

5 おわりに

相続させる旨の遺言は広く使われていますが、平成30年の民法改正で民法899条の2が新設された結果、以前ほど強力な遺言ではなくなりました。

相続させる旨の遺言があっても、遺産の中に不動産がある場合、登記をするまで安心できませんので注意が必要です。

以上

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