【弁護士による判例解説】「遺産分割前に売却した財産の売買代金が遺産に含まれるか。」

代表弁護士 多湖 翔 (たこ つばさ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号46487)

1 遺産分割協議完了前に遺産を売却した場合、遺産分割協議成立前に代金を相続人に分配しなければならないか

遺産のほとんどが不動産であり、不動産を売却しないと相続税の支払いが出来ないケースなど、遺産分割が成立する前に、共同相続人同士で協力して不動産を売却することは多々あります。

売買代金を相続人の一人が代表して受領したにも関わらず、特別受益の主張などがあり、遺産分割が完了していない段階では、他の相続人へ売買代金の支払いを行うことは出来ないと、支払いを拒まれることがありますが、このような場合、他の相続人は売買代金の管理者へ、自分の相続分の売買代金を請求することが出来るのでしょうか。

遺産を売却する場合の注意点はどんなことでしょうか。

判例と共に見ていきましょう。

2 相続人全員の売却に関する合意がある場合

⑴ 売却した物も、売買代金も遺産ではない

この点、最高裁昭和52年9月19日判決は、共同相続人全員の合意によって遺産分割前に遺産を構成する不動産を売却した場合、不動産も売買代金債権も遺産ではないとしています。

なお、この判例は、売買代金が未払いの場合、各相続人が買主である第三者に対して、自らの相続持分について各々代金請求をすることが出来るとも述べています。

⑵ 他の相続人は売買代金の受領者に対して売買代金の引き渡しを請求できるか。

最高裁判所昭和54年2月22日判決は、「共有持分権を有する共同相続人全員によってほかに売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じてここにこれを分割取得すべきものである」と判示し、他の相続人は民法646条1項の受任者の目的物引渡義務の条文に基づいて、持分に応じて代金の引き渡しを請求することが出来ると説明しています。

つまり、他の相続人は、代表して売買代金を受領したものがいる場合には、速やかに売買代金の支払いを求めることが出来るようになります。

3 相続人の合意がない財産の売却について

他の相続人の合意がないにも関わらず、事実上遺産を管理しているものが無断で遺産を売却した場合には、他の相続人は管理者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有すると解されています。

福岡高等裁判所平成13年4月26日判決も、無断で遺産に属する株式を取得したものに対して、他の共同相続人は、不法行為に基づく損害賠償請求権を法定相続分に従い相続し、遺産分割協議成立前にこれを行使できると判示しています。

4 遺産分割前に、遺産に属する財産を売却する際の注意点

⑴ 共同相続人の同意なく売却しないこと

遺産を現金化する必要性があっても同意なく売却することは避けた方が無難です。不法行為に基づく損害賠償請求権を行使される恐れがあるだけでなく、代金が不当に廉価だったなどと縷々主張される危険があります。

必ず他の相続人の同意を取り付けてから売却をしましょう。

⑵ 売却に関する合意書を作成すること

判例上は、遺産分割前に不動産を売却する場合は、当事者間で特別な合意がなければ、受領後、速やかに各相続人に分配しなければなりません。

代金を相続税の支払いに充てて、他の遺産で相続分の調整を図りたい場合や、多額の特別受益を受けている場合など、遺産分割の話し合いの中で売買代金の調整を図りたい場合もあります。

そのような場合は、必ず合意書を作成して、遺産の売買代金については遺産に含めて扱い、遺産分割協議の中で帰趨を決めるという合意を取り付けておくとよいかもしれません。

以 上

初回60分相談無料

相続トラブル・手続きのお悩みはお任せください

要予約

無料相談予約はこちら

0120-359-138
平日9:00〜18:00 ※ご予約で夜間土日祝対応可能
24時間受付中/メール相談予約フォームはこちら
※土日祝除く / 夜間・土日祝相談対応可能(要予約) / 相続相談に限る。