【弁護士による判例解説】特別縁故者のうち、「その他被相続人と特別の縁故にあった者」とはどのような者を指すのか

代表弁護士 多湖 翔 (たこ つばさ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号46487)

最近、亡くなった際に、相続人がいらっしゃらない方が増えています。相続人がおらず、遺言もない場合、相続財産は相続財産管理人が管理を始めます。

その手続きの中で、亡くなった方に特に縁のあった方が、全部あるいは一部の相続財産を受け継ぐことを民法は認めています。それを「特別縁故者」といいますが、どのような関係がある方が特別縁故者に当たるのでしょうか。

民法958条の3は、「前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。」としていますが、今回は、「その他被相続人と特別の縁故があった者」に特に注目して解説をしていきたいと思います。

1 その他被相続人と特別の縁故があった者とは

「その他被相続人と特別の縁故があった者」について、大阪高等裁判所昭和46年5月18日は「同法条に例示する二つの場合に該当する者に準ずる程度に被相続人との間に具体的且つ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者」かどうかという観点から判断すべきという判断枠組みを示しています。

つまり、例えば内縁の妻や子ら等までではにないにせよ、それに準じる程度に具体的なつながりがあったかどうかで判断するということです。

2 大阪高裁平成20年10月24日決定

次に、「その他被相続人と特別の縁故があった者」に当たるとされている具体的事例を見てみましょう。

⑴ 事案の概要

被相続人(X)は平成19年に97歳で他界しました。

相続財産は預金が約6300万円、その他、メダルや、宝石類が多数あったものの、法定相続人がいなかったため、Xの成年後見人を務めていたB(Xの父の妹の孫Aの夫)が相続財産管理人の申立てを行い、AとBが自らを特別縁故者として相続財産を分与すべきであると主張した為、特別縁故者の該当性が問題となりました。

⑵ 裁判所の判断

ア 原審の判断

原審は、A、B及びXとの関係は、Xが89歳の高齢に達して老人ホームに入所するまでは、通常の親族関係の域を出るものではなかったけれども、老人ホーム入所後は、被相続人の療養看護、財産管理及び死後の法要等に尽力したものとみることができるから、いずれも特別縁故者に当たるとしたうえで、特別縁故の性質、内容、程度、葬儀法要等のため負担した費用の額、相続財産の種類及び金額その他一切の事情を考慮して、相続財産からAに対しては金300万円と宝石等を、Bに対しては金300万円のみを分与すべきとの判断をしました。

これに対して、A及びBは、「通常の親族関係の域を出るものではなかった」という認定と、全てを分与すべきであると分与額について強く争い、大阪高等裁判所に抗告をしました。

イ 抗告審の判断

これについて、抗告審の大阪高等裁判所は、「被相続人が平成11年に老人ホームに入所するまでの間は、AとBは、多数回にわたって、遠距離の旅程をものともせず、老人ホームや入院先を訪れて、親身になってXの療養看護や財産管理に尽くしたうえ、相当額の費用を負担して、被相続人の葬儀を主宰したり、その供養も行っているものである。

このような関係をみると、AとBは、Xと通常の親族としての交際ないし成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係にあり、被相続人からも信頼を寄せられていたものと評価することが出来る。」と述べ、特別縁故者と改めて認めた上で、金額を300万円から500万円に増額しましたが、全部の分与については否定しました。

⑶ 審判例の考察

この審判例は、当事者の方にとってはともかくとして、実務的な常識に合致した判断です。注目すべきは、死後の葬儀の主宰や供養なども考慮要素に含んでいる点(恐らく死後の行為から生前の関係性を認めているのでしょう)と、全額の分与を明確に否定している点です。

一般的には、内縁の妻や事実上の親子関係などがあったのであれば、全ての分与が認められることも多いですが、「その他被相続人と特別の縁故があった者」については、全部の分与を認めるというのはあまりなく、一部の分与とされることが多いです。

私も相続財産管理人を多数経験する中で、「全ての分与が認められない。」「残りは国に帰属してしまう。」などと、当事者の方がそのような苦悩に直面されている姿をお見かけすることが多いです。

弁護士として助言できることは、誰かの面倒を見たり、財産管理を行う場合には、必ずその方に、それらの負担と引き換えに、自分に遺産を譲る旨の遺言書を書いてもらって欲しいということです。

本当は亡くなった方も、面倒を見てくれた方に全てを譲りたいと思っていても、遺産のほとんどは国に帰属するということになってしまいますから。

以上

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