【弁護士による判例解説】「相続分の譲渡と特別受益」 最高裁平成30年10月19日判決

弁護士 松浦 薫 (まつうら ゆき)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号52876)

相続人は、自身が持っている法定相続分を、他の相続人や第三者に譲渡することができます。

たとえば、父親が亡くなったときに母親が自身の相続分を長男に無償で譲渡し、後に、母親が亡くなって相続が発生し、長男と二男とが相続する場合、先に行った相続分の譲渡については、何らかの考慮がされるのでしょうか。

二男の立場からすれば、長男は父親の相続のときに利益を受けているのですから、母親の相続のときに考慮されなければ不公平に感じることでしょう。

相続分の譲渡が「贈与」に該当し、特別受益になり得るのか、遺留分の算定において考慮されるのかが問題となった最高裁判例をご紹介します。

1 事案の概要

父A、母B、子CDEの五人家族のうち、父Aは平成元年に他界しました。

父Aの遺産分割を行う際、母B(法定相続分2分の1)と子D(法定相続分6分の1)は、子Eに自身の法定相続分を無償で譲渡しました。そのため、父Aの遺産については、子Cが6分の1、子Eが6分の5の割合で相続することになりました。

そして、母Bは平成25年に他界しました。

母Bには固有の財産が何もなく、あるとすれば、父Aの相続の時、子Eに譲渡した法定相続分のみです。

子C及び子Dは、子Eに対して、母Bから子Eへの相続分の譲渡が、民法第903条1項に規定する「贈与」として特別受益に該当すると主張し、それによって遺留分が侵害されたとして、遺留分減殺請求(現在は法改正により、「遺留分侵害額請求」となっています。)をしました。

子Eは、相続分の譲渡には固有の財産の移動がなく「贈与」に当たらないことや、相続分の譲渡は贈与税の対象となっていないこと、遺産分割は相続開始時に遡って効力を生じるとされているため(民法第909条)、母Bからではなく父Aから子Eに対して直接的に権利が移転するのであって、母Bから子Eに対する「贈与」に当たらないことなどを主張しています。

第1審の甲府地方裁判所都留支部、控訴審の東京高等裁判所は、いずれも母Bから子Eに対する相続分の譲渡は「贈与」であり、特別受益に該当するとして、譲渡された相続分の価格を遺留分算定の基礎に含める判断をしました。

これに対して子Eがさらに最高裁判所へ不服を申し立てた結果、最高裁判所は、以下のように判断しています。

2 最高裁平成30年判決の概要

最高裁も、結論として、相続分の譲渡は「贈与」に該当するとし、子C及び子Dから子Eに対する遺留分減殺請求を認める判断を下しました。

その理由としては、まず、相続分の譲渡は、遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるとし、相続分の譲渡は固有の財産の移動がないという子Eの主張を退けました。

そして、相続分の譲渡は、譲受人が遺産分割手続きにおいて、他の相続人に対して、自身が元々有していた相続分と譲渡された相続分の合計に相当する価格の相続財産の分配をできるようにするものであり、その相続分に財産的価値があるといえない場合を除き、譲渡人から譲受人に対して経済的利益を合意によって移転するものである、ということも理由として挙げられています。

そして、遺産分割は相続開始時に遡って効力を生じるとされていることは、上記のように解することの妨げになるものではない、として、子Eの上告を棄却し、子C及び子Dによる遺留分減殺請求を認めました。

3 最高裁平成30年判決の解説

相続分の譲渡は、具体的に特定の財産を譲り渡すのではなく、「遺産の何分の一」という遺産全体に対する割合的な持分を譲り渡す行為であり、「贈与」の一般的なイメージからは外れるかもしれません。

しかし、経済的利益を合意によって移転する、という点において、相続分の譲渡も贈与の性質を有しています。

本件の場合で言えば、母Bが父Aから一度相続した財産を子Eに生前贈与する場合と、母Bが自身の法定相続分を子Eに譲渡した場合とで、子Eが受ける経済的利益は同じであるにもかかわらず、前者と後者とで特別受益に該当するかどうかの判断が変わるのは不公平です。

相続分の譲渡を、民法第903条第1項に規定する「贈与」に当たるとした本判決は、結論として妥当なものであると思います。

4 改正相続法における「贈与」の期間制限

遺留分算定の基礎となる被相続人から相続人への「贈与」について、令和元年に改正相続法が施行され、原則として相続開始前10年以内に限るという期間制限が設けられました。

相続分の譲渡が行われたのが10年以上前だと、譲渡人及び譲受人の双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合を除き、遺留分算定の基礎に含められない可能性があるので、注意が必要です。

過去の相続のことも含め、相続人間の公平性に疑問が生じた場合には、まず弁護士に相談されることをお勧めいたします。

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