【弁護士による判例解説】「非公開会社(同族会社)の株式を代表取締役に就任する予定の相続人の一人が全部取得を主張できるか。」

代表弁護士 多湖 翔 (たこ つばさ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号46487)

非公開会社の株式も相続が発生してしまえば、遺産として遺産分割の対象となります。

また、経営が順調な会社の株式は、非公開会社といえどもかなり価値が高額になることもあります。

相続人が複数いる場合、相続により、株式が相続人に分散してしまうと、会社の経営が困難となることがあります。

今日は、非公開会社の株式について、民法906条を解釈し、代表取締役に就任する予定の特定の相続人に単独相続させた事例について紹介します。

1 東京高裁平成26年3月20日決定

(1)事案の概要

本件会社は、非公開の株式会社で被相続人(大株主)の父である初代社長Aが昭和24年に設立し、その後、被相続人の夫Bが2代目社長に就任しました。同人の長男Cが3代目社長に就任したあと、Cが平成22年に死亡したため、Cの妻Dが現社長を務めています。

この会社はCとDの子Xが次期社長に就任する予定であり、Xが被相続人の長女であるY及び次女であるZを相手方として、遺産分割調停(審判)を申し立てた事案です。

原審は、株式についてすべてをXに相続させるべき事情は認められないとして、Y及びZにも法定相続分に従った株式の相続を認めてしまいました。

代表取締役に就任する予定だったXはYやZに分散して株式を取得させることは、同社の経営基盤を損なうため、1212万円の代償金の支払と引き換えに自らが単独相続するべきだとして、東京高等裁判所に抗告を提起しました。

(2)裁判所の判断

東京高等裁判所は、原審判とは異なり、本件会社の初代社長及びその親族がこれまで経営にあたってきており、その大半の株式を初代社長の親族が保有している典型的な同族会社であり、経営規模からすれば、経営の安定のためには、株主の分散を避けることが望ましいです。

これは、会社法174条が、譲渡制限株式を取得した者に対して自社に当該株式を売り渡すことを請求できると定款で定めることができると規定し、中小企業における経営の承継の円滑化を図ることを目的として制定された中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が、旧代表者の推定相続人は、そのうちの一人が後継者である場合には、その全員の合意をもって、書面により、当該後継者が当該旧代表者からの贈与等により取得した株式等の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことを合意し、家庭裁判所の許可を受けた場合には、上記合意に係る株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないものとすると規定していることなどに表れているところ、これらの規定は、中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に悪影響を及ぼすことを懸念して立法されたものであります。

そのような事情は、民法906条所定の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に当たるというべきであるから、本件においても、これを考慮して遺産を分割するのが相当であると判断し、会社の株主構成や、Xが次期社長に就任する予定であること、代償金の支払能力があることが認められることがあることなどに鑑みると、Xに単独相続させることが相当であると判断しました。

 (3)考察

遺産分割調停や審判が裁判所に係属している場合は、大抵が何らかの理由により互いの信頼関係が損なわれている場合です。1審の判断のように法定相続分通り株式を相続させてしまい、例えば、経営陣側の株式数が、2分の1を下回るような事態が生じれば、会社の運営は早晩立ち行かなくなります。

非公開会社(同族会社含む。)とはいえ、多数の従業員や取引先を抱えており、その経営基盤が損なわれるとなると、親族間同士の問題に留まらず、多くの関係者に深刻な影響を与えることになります。

他方で、経営に関わっていない親族にとっても、よほどの優良企業を除けば、非公開会社の株式を取得したとしても多くの場合、簡単に処分することも出来ませんし、経営に関わりたくないと思っていることも多いですから、有効に活用できません。

表面上は、株式の取得を希望していても、実際は株式の買取りの評価について、意見が対立していて、そのような低廉な評価であれば取得したいと主張することが多いのが相続実務の実際です。

非公開会社の株式の評価は複雑であることが多く、公開会社と異なり、市場価格もありませんから、公認会計士等の鑑定が必要であり、会社の規模、種類等により、評価方法に関する考え方の対立が生じます。当然、会社側は出来る限り株式の評価額を抑えようとし、代償分割を求めるものは代償金の金額を出来る限り上げることが希望です。

そのため、適正に株式の評価さえなされているのであれば、非公開会社の株式を法定相続分通り分割せずに代償分割を裁判所が選択したとしても、不合理ではないケースが多いでしょう。

東京高等裁判所は、民法906条の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」を解釈して、代表取締役就任予定者への単独相続を認めましたが、このような判断には一定の合理性があるものと考えられます。

以上

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