【弁護士による判例解説】「家庭裁判所による祭祀承継者の決定」 東京高等裁判所平成18年4月19日判決

弁護士 八幡 康祐 (やはた こうすけ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号57699)

今回は、本判決を通じて、亡くなった方が所有していた過去帳、仏壇や位牌等の祭具、お墓の承継者が家庭裁判所によりどのような判断要素で決められるのか、ご紹介したいと思います。

1 事実の概要

亡くなった母親Aの墓地使用権及び墓標等について、その権利の承継者を、長女Xと長男Yのいずれにすべきかが争われた事案です。

Aは自分の祭祀の承継者を生前指定しておらず、祭祀承継に関する特段の慣習もありませんでした。既に亡くなっていたAの夫Bは、墓地の名義変更に関する念書を作成した際、その宛名に「Y以下○○家の後継者」と記載しており、YはAの唯一の男子でした。

一方Xは、他家に嫁ぎ、Aとは別の姓を名乗っていました。

2 本判決の争点

民法897条1項によれば、祭祀承継者は被相続人の指示に従って決められ、その指示が無ければ慣習に従って先祖の祭祀を主宰すべき人が決められます。

そして、同2項によると、指示も慣習もない場合には、家庭裁判所が祭祀に関する権利の承継者を決めるとされています。

本件は、Aが祭祀承継者の指定をしておらず、特段の慣習もない事案であり、家庭裁判所がどのような観点から祭祀承継者を決定するのか、その要素が問題となっています。

本件を表面的な視点で見れば、Xは他家に嫁いでAとは姓が異なる一方、Yは唯一の男子であり、父親B作成の念書による「Y以下○○家の後継者」とのお墨付きもありますから、Xの方が分が悪そうです。

それでは、裁判所はXとYのどちらを祭祀承継者としたのでしょうか。

3 裁判所の判断

⑴ 第1審(原審)

本判決の原審は、Aの夫が墓地の名義変更に関する念書を作成した際、その宛名に「Y以下○○家の後継者」と記載しており、Aの遺言もこれを前提としてみられること、YがBとAの同意を得て先祖の遺骨を改葬していること、Aの死後、Yが知事から許可を受けたこと、Yが法事を施主として行ったこと等を理由に、Yを祭祀承継者としました。

これだけの理由を聞くと、Yが祭祀承継者として相応しいと誰でも納得しそうなものです。

⑵ 第2審(本判決)

ところが、本判決は、XはB、Aが死亡するまで同居して親密な生活関係にあったのに対し、Yは昭和45年から平成6年頃までXらとは音信不通で、Bの葬儀にも出席しなかったこと、またYは借金等でBらに多大な迷惑をかけ、一時的に姓を変更したこと、Aは遺言でXらの墓も含めて墓を守るように指示をしているのに、Xらの墓を撤去してXらに500万円の損害賠償を求めていることなどを理由に、Xを墓地使用権の承継者としました。

つまり、第1審とは真逆の結論を出したのです。

4 本判決における祭祀承継者の判断要素

本判決は、祭祀承継者を誰とすべきかの判断要素について、次のように述べています。

「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」

一文が長いので、要素ごとに並べると、

  • ①身分関係や事実上の生活関係
  • ②承継候補者と祭具等との間の場所的関係
  • ③祭具等の取得の目的や管理等の経緯
  • ④承継候補者の祭祀主宰の意思や能力
  • ⑤その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)

を総合考慮して判断すべきとされています。

また、「被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって」、「死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情を最も強く持ち」、「被相続人としてもおそらく指定したであろう者を祭祀承継者と定めるのが相当である」とも述べられています。

この点は、『⑥被相続人の生前の意思』もまた考慮要素の1つになっているとみることができると思います。

家庭裁判所はそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断していると思われますが、主にⅰ被相続人との親密性(①~⑤)と、ⅱ被相続人の生前の意思(⑥)という点を重視していると言われています。

一審が考慮した、念書には何と書いてあるか、他家に嫁いでいるか等の点も、被相続人の生前の意思や、念書作成当時の親密性を推認し得る事情として一定の意味を持つ事情ではありますが、被相続人と承継候補者の親密性や、被相続人の生前の意思をより深く掘り下げた本判決をみると、やはり本判決の方が説得力があるのだろうと感じます。

5 まとめ

祭祀承継は、前記のとおり民法897条により決められるものですから、遺産分割の対象とはならず、遺産分割とは異なる観点で決められるものです。

この点、本判決は、家庭裁判所による祭祀承継者の決定時の判断要素を示したものとして、とても参考になるものといえます。

とはいえ、上記の判断要素を見れば分かるとおり、祭祀承継者の決定は様々な考慮要素を総合考慮するものですから、容易に判断できるものではありません。

また、各考慮要素をどのように立証するのかも難しいところです。祭祀承継者を誰にするべきか争いになった場合、一度弁護士事務所を訪ね、どのような主張を行っていくべきか相談することをおすすめします。

以上

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