【判例解説】できるの?遺産分割協議のやり直し

弁護士 八幡 康祐 (やはた こうすけ)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号57699)

(①最高裁判所平成元年2月9日第一小法廷判決)
(②最高裁判所平成2年9月27日第一小法廷判決)

今回は,2つの判例をご紹介し,遺産分割協議をやり直すことができるのかという点をテーマに,お話ししたいと思います。

1 事実の概要

⑴ ①最高裁判所平成元年2月9日第一小法廷判決について

今回ご紹介する1つ目の判決の事案は,父親が死亡し,母親と6人の子らの間で遺産分割協議が行われた事案です。

協議の内容は,長男が母親の老後の世話等を行うことを条件に,長男に法定相続分より多い有利な遺産分割を行うというものでした。

ところが,遺産分割協議後,長男は,協議での約束を守らず,母親の老後の世話をするどころか,虐待をして十分な扶養を行いませんでした。そのため,長男以外の子らが長男に対して,遺産分割協議で約束した内容を履行するよう催告しましたが,それでも長男は約束を果たしませんでした。

そこで,長男以外の子らが,長男に対し,民法541条に基づき,長男の約束違反を理由に,同遺産分割協議の解除等を求め,Yが所有権移転登記を経由した相続不動産につき,法定相続分に従った更正登記手続等を求めたのです。

この判例①の事案のポイントは,「一度成立した遺産分割協議を,約束違反を理由に一方的に解除できるのか」という点です。

⑵ ②最高裁判所平成2年9月27日第一小法廷判決について

2つ目の判決の事案は,長男と二男ら共同相続人5名の遺産分割協議により,長男が遺産の土地を相続したのに,二男が勝手に同土地について二男名義の所有権移転登記を行ったという事案です。

長男は二男に対し,所有権に基づく抹消登記手続を求めて裁判を起こしました。

これに対して二男は,遺産分割協議を修正する合意が共同相続人間で再度行われ,二男らが相続することになったため,長男に所有権は無いと反論しました。

この判例②の事案のポイントは,「一度成立した遺産分割協議を,相続人全員の合意に基づき解除し,再分割協議を行うことはできるのか」という点です。

2 最高裁の判断

⑴ 判例①について

最高裁は,①の事案において,「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法五四一条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である」と判断しました。

つまり,遺産分割で決めた約束に違反があっても,法律に基づき一方的な解除をすることは許されない,と判断したのです。

⑵ 判例②について

一方,最高裁は,②の事案において,「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではな」い,と判断しました。

つまり,一度成立した遺産分割協議であっても,相続人全員の合意があれば,再度分割協議を行うことは許される,と判断したのです。

3 2つの判例の違い

⑴ 上記の判例によれば,一度有効に成立した遺産分割協議をやり直すためには,相続人全員の合意が必要ですが,どうして判例①と判例②とで結論が変わったのでしょうか。

⑵ 遺産分割は,相続により発生した共有状態を解消し,過去の相続開始時点に遡って効力が生じるという強力な法律行為です(民法909条本文)。そのため,遺産分割協議での約束に違反したことを理由に相続人が一方的に解除(法定解除)できてしまうと,当該遺産に関する法律関係が不安定となってしまいます。

このような事情を踏まえ,判例①は,有効に成立した遺産分割協議の一方的な法定解除は認めなかったのだと思われます。

⑶ 一方,合意解除には法の制限がない限り有効性は否定されないとの一般原則があります。

また,共同相続人間においては,全員の合意がある以上,遺産に関する法律関係が不安定になるということもありません。

そのため,判例②は,相続人間全員の合意がある場合には,遺産分割協議のやり直しを認めたのだと思われます。

4 相続人全員の合意があればやり直しができると安易に考えてはいけない

上記のとおり,判例②は,共同相続人全員の合意がある場合,遺産分割協議のやり直しを許容しています。

しかしながら,たとえば一部の相続人に有利な遺産分割協議をやり直すために,相続人全員の合意を得ることは容易ではありません。

なぜなら,自分に有利な遺産分割を行うことに成功した相続人にとって,わざわざ遺産分割協議をやり直すメリットはないからです。

そのため,判例②については,「遺産分割協議は全員の合意があればやり直しができるのだ」という理解よりも,「一度有効に成立した遺産分割協議のやり直しができるのは,相続人全員が合意するという限定的なケースに限られるのだ」という理解が大切だと思います。

ですので,遺産分割協議にサインをするかどうかは,慎重に判断すべきです。

5 終わりに

日頃ご相談をお受けしていると,「他の相続人は文句を言わずサインしてるし…」とか,「ここで文句を言ったら喧嘩になるかもしれない…」といった心情から,特に遺産分割協議書を読まずにサインしてしまう方も多いです。

しかしながら,本稿の読者の皆様には,一度サインをしてしまうと,後で協議をやり直すことは難しいことを思い出していただき,一旦冷静になっていただきたいと思います。

そして,遺産分割協議書の内容に疑問が生じた場合には,必ずサインをする前に,一度弁護士に相談することをお勧めします。

当事務所では,遺産分割協議の内容について,お客様のご希望や疑問点をうかがいながら,法的アドバイスをご提供させていただいております。

お困りの際は,当事務所をお気軽にご利用いただけますと幸いです。

以上

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