【弁護士による判例解説】「寄与分の金額に上限はある?」東京高裁平成3年12月24日決定

弁護士 松浦 薫 (まつうら ゆき)
多湖総合法律事務所
所属 / 神奈川県弁護士会 (登録番号52876)

被相続人の療養看護を行ったり、遺産の維持管理に努めたりして、相続財産の維持・増加に特別の寄与をしたと認められる場合には、遺産分割を行うに当たって、相続人間の衡平を図るため、相続人に「寄与分」が認められることがあります(民法の改正により、相続人以外の親族が「特別寄与料」を請求できる制度も新設されました。)。

寄与分の決め方について、民法第904条の2の第2項では、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。」と規定しており、その金額や割合の上限を定めていませんが、寄与分の金額に上限はあるのでしょうか。

この点について判断を示した、東京高等裁判所平成3年12月24日決定をご紹介したいと思います。

1 事案の概要

父親が亡くなり、相続人は子どもたち4人です。父親の遺産を相続人らで分割する調停が申し立てられ、その中で、被相続人の長男は自身の寄与分を主張していました。

浦和家庭裁判所越谷支部は、長男が農家の跡取りとして相続財産である農地の維持管理に努めていたこと、晩年の被相続人の療養看護を行ったことを理由に、長男に「相続財産の7割」の寄与分を認めました。

これに対して、長女は、長男が農業に従事していたことによって、相続財産が維持されたとしても増加はしていないから、寄与が高割合になることはないこと、長男に7割の寄与分を認めると他の相続人は遺留分を侵害され、憲法の平等原則に基づく相続法制を根本から崩壊させることなどを理由として、原審判に不服を申し立てました。

長女からの不服申立てに対して、東京高等裁判所は、次のとおり判断しました。

2 東京高裁平成3年決定の概要

東京高等裁判所は、まず、原則として、寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない、としました。

しかし、一方で、寄与分を定める際に考慮すべき「一切の事情」のひとつとして、他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならない、と判断しています。

そして、原審が認めた7割という寄与分は、他の相続人の遺留分を侵害するものであり、また、遺産たる農地の維持管理や被相続人の療養看護にあたったというだけでは、長男の寄与分を大きく評価するのは相当でなく、さらに特別の寄与をした等特段の事情がなければならないところ、原審はその点を考慮した形跡が窺われないとして、浦和家庭裁判所越谷支部に事件を差し戻し、審判をやり直すよう命じたのです。

3 東京高裁平成3年決定の解説

東京高裁平成3年決定は、「他の相続人の遺留分を侵害するような寄与分を定めてはいけない」と判断したわけではありませんが、寄与分を定めるに当たっては、他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかも考慮すべきである、と判断しました。

この決定内容からしますと、他の相続人の遺留分を侵害するような寄与分を定められないわけではないけれども、他の相続人の遺留分を侵害するほどの多額の寄与分を認めなければ相続人間の衡平を害するといえるほどの特別の寄与が要求されている、と解釈することができます。

遺留分は、相続人の生計の資本として、最低限度の相続分を保障するために認められている制度であることから、たとえ相続人の一人に寄与分が認められるとしても、それにより他の相続人の寄与分を侵害するということは、容易に認められるべきではありません。

したがって、裁判所における実際の運用としましては、寄与分を定めるに当たっては、「他の相続人の遺留分を侵害しない」という上限が事実上設けられているといっても過言ではないかと思われます。

4 遺留分額侵害請求訴訟において寄与分を主張できる?

遺留分と寄与分の関係で、少し視点を変えて、「遺留分額侵害請求訴訟において、抗弁として寄与分を主張できるか」という点についても、触れておきたいと思います。

この点については、東京高等裁判所平成3年7月30日決定で、「遺留分額侵害請求訴訟(※当時は遺留分減殺請求)において、抗弁として寄与分を主張することはできない」と判断されています。

その理由としましては、簡潔に、「寄与分は、共同相続人間の協議により、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであり、遺留分減殺請求訴訟において、抗弁として主張することは許されないと解するのが相当である。」とだけ判断されています。

遺留分侵害額請求訴訟は地方裁判所に対して提起される訴訟であるのに対し、寄与分は、家庭裁判所の審判を経て初めて確定します。地方裁判所での訴訟の抗弁として寄与分の主張を認めてしまうと、家庭裁判所の審判によらず、地方裁判所が寄与分を定めることになりますが、それは裁判所に割り当てられた権限を逸脱することになり兼ねません。

そのため、遺留分侵害額請求訴訟において、寄与分を主張することはできない、と判断されています。

このことは、「他の相続人の遺留分を侵害するような寄与分を定められるか」という論点とは全く別の論点ではありますが、寄与分と遺留分の関係として、「寄与分があっても、(原則として)遺留分は支払わなければならない。」という結論部分が共通していることから、ご紹介いたしました。

今回ご紹介したのは、あくまで裁判所の判断であり、相続人間の話し合いにおいては、他の相続人の遺留分を侵害するような寄与分を定めることも問題ありません。

また、裁判所はいかなる場合でも他の相続人の遺留分を侵害するような寄与分は認められない、と判断しているわけではありませんので、相続人間の衡平という観点から特別の事情がある場合には、他の相続人の遺留分を侵害するような寄与分が認められる可能性もあります。

裁判所に寄与分を認めてもらうには、適切な証拠資料の収集、提出、金額の算定などが必要になります。ご自身では難しいと感じることがございましたら、お気軽にご相談いただければと思います。

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